模試から帰った息子に待っていたのは

歩けないほどに弱っていた。

流動食も水も飲み込めなくなっていた。

でも

その朝息子の部屋で目覚めた時は

パッチリとした瞳で見つめてきた。

良くなる、そんな希望を持てる瞳で。

 

~ ピイ太郎のそばにいてあげて ~

 

その言葉で息子は全てを悟った。

 

「ピイ太郎、お前、お前・・・・・

ピイ太郎ぉぉぉ・・・・・」

 

息子の部屋から胸が締め付けられるような

慟哭が聞こえた。

息子とピイ太郎だけの空間。

とにかく息子だったピイ太郎。

息子を切ないほどに慕っていたピイ太郎。

息子に抱かれていたら

嫌いな点滴も大人しくしていた。

 

ー ピイ太郎は特別 ー

 

息子もピイ太郎には強い絆を感じていた。

そのピイ太郎が

10月20日

模試があった息子の帰宅を待たずに

息を引き取った。

 

 

息子を連れてきたピイ太郎

18年前の小雨降る6月だった。

 

当時暮らしていたマンションのドアの外に

ピイ太郎はいた。

体中に蚤がたかっていて

電柱の上からはカラスが狙っていた。

叫び続けていたためか

声はつぶれていて

それでも、

ちっちゃな体の力の限りで

びゃー!!びゃー!!と叫んでいた。

 

私は気づいたら自分の来ていたTシャツで

ピイ太郎をくるんで、

くるんで、

獣医さんへ連れて行って

 

そして、

 

ピイ太郎は家族になった。

 

ピイ太郎は知っていたのかな?

自分が求めていた男の子が産まれる家を。

だから必死になって叫んでいたの?

ピイ太郎が家族になってから程なくして

息子がお腹の中に宿ったんだもん。

 

息子が産まれてからは、

ピイ太郎はいつだって息子の傍にいた。

まだ赤ん坊の息子に近寄らせないように

あれやこれや策を講じても、

気が付くと息子に寄り添っていたピイ太郎。

それからずっと、ずっと。

 

息子だけでなく、

家族中から愛されていたピイ太郎。

癒したり思いやったり遊ばれたり。

慰めたり寄り添ったり遊ばれたり。

 

ピイ太郎が選択したギリギリの日

ピイ太郎は息子と離れたくなかった。

ピイ太郎は一分一秒でも息子の傍にいたかった。

ピイ太郎は息子の大学受験の邪魔はしたくなかった。

 

希望の大学に合格したら息子は家から出ていく。

息子と離れて暮らすことになる。

もうすぐ11月、全力疾走になる受験勉強。

 

~ この日しかない ~

 

ピイ太郎は選んだんだよね、

10月20日という日を。

 

泣き腫らした息子は晩御飯も摂らず

ピイ太郎と離れようとしなかった。

いつ眠ったのか、

一晩中ピイ太郎と一緒にいた。

翌日は学校を休んで、

ピイ太郎と一日を過ごした。

その次の日は即位の礼があり休日。

家族でピイ太郎とお別れした。

 

ピイ太郎が悲しむ時間をくれたから

休日明けの水曜日に

息子は泣かずに学校へ行けた。

ピイ太郎への思いを胸に、

受験勉強にまた取り組みだした。

 

可愛い愛おしいピイ太郎、

また会いたいな。

でもピイ太郎は生まれ変わってもまた、

息子の所へ行くのでしょう?

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